| ラム酒というと、どうも日本ではケーキやお菓子の香りづけ程度の認識しかないようで、マンボな私としてはとても悲しいのですが、ラムをコカ・コーラで割れば「クーバ・リブレ」(自由キューバ)、あとラム・ベースの有名なカクテルとしてはヘミングウエイが溺愛したと言われる「ダイキリ」、「モヒート」など、いわゆるトロピカル・カクテルの美味なものはラム・ベースが圧倒的に多い。でも、カクテルばかりではなくストレートで飲むとこれまたいけるので、騙されたと思って一度はそのブランディのような舌触りを楽しんで頂きたいものです。
さて、キューバのラムと言えば「ハバナ・クラブ」が有名ですが、日本では1年ものから5年ものぐらまでしか手に入らない。しかし、キューバに行けば25年ものが入手できるという噂を小耳に挟んでいた私は、「一度は口にしてみたい。出来れば1本買って帰りたい」と熱望していたのでありました。日本で手軽に入手できる1年ものでもあんなに美味なのだから25年ものは凄く美味に決まっている・・・
さて、流石に25年もの。安くなかったというより高かった(涙)。いや、高いというかモノに見合った値段なんでしょうけど、1本300ドルを越えると流石に躊躇せざるを得ない。ボトルを買うのは諦めるとしても、チョビっとでもいいから舐めてみたい。
というわけで、一般のバーには置いてなくとも観光客相手のバーなら置いてあるに違いないと、ハバナにある「カサ・デ・ロン」に出向いたわけです。流石にここは何でも揃っていて、「旦那。勿論ありますよ。でも一杯25ドルですよ。ひひひひひ」と来た。この「ひひひひひ」というのは人を見てつい発してしまった「ひひひひひ」に違いない。キューバ人は実に人を見る目があり正直だ(苦笑)。
しかし私は遙々太平洋を越え、まさに海を越え山を越えやってきたのだ。清水の舞台から飛び降りる覚悟なら25ドルなどなんだ!私はニヒルに「フフ」と笑い、「いいよ。一杯貰おう」とバーテンに告げた。バーテンはニコリと笑い、「ちょっとオマケです」と、多めに注いでくれた。繰り返し言うが、キューバ人はやはり人を見る目があるようだった。
さて、もうそれは口当たりからして異なっており、フランスの高級ブランデーの如き舌触り。さすが一杯25ドルだけの事はある。しかし、米国からの経済封鎖という嫌がらせを受けている国で、お猪口一杯に25ドルも払って嬉しそうにしているのは成金ジャパンもろ出しで誠に気が引ける。従って本当はチビチビせこく舐めながら飲みたかったのだが、えぇいと一気に喉に流し込み勘定を済ませた私だった。
「え?たったお猪口一杯に25ドルも払ったって?正気か!?」
キューバの友人達からは想像していた通りの反応があった。
「しかしなぁ、俺は極東の縁の縁、端っこの方から遥々やって来たんだぞ。いいじゃないか、一杯だけだったんだから!そのぐらいの特権は認めて頂戴!」
友人達もファナティックなキューバ好きの東洋人が、自分たちの国の最高級の地酒が飲みたかったって話に悪い気はしてないようだった。その証拠に呆れるというよりは嬉しそうにみえた。だが、その理由は他にあったのだ。
「いやぁ、別にいいんだけど、25ドル払う前に相談して欲しかったなぁ。確かにハバナ・クラブは有名で美味しいのだけれど、実のところキューバ人にはあんまり人気はなかったりする。輸出用なんだよねぇ、基本的には。まぁ、もっと美味しいラム酒はいっぱいあるって事を言いたいわけなんだけど」
そう言いながら、彼らはラム酒が入ったグラスを私の眼前に差し出したのだ。ちょびっと舐めてみる。「あ、こ、これは!」続いてグイっと喉に流し込んでみる。
なっ、なんと美味な!
"だははははは!"
全員が爆笑し、合唱を始めた。パッ、パッ、パティクルサード!
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あの25年モノのハバナ・クラブなんて目ではなかった。ナンチューうまいラム酒だ!キューバの皆さまは日頃こんな美味なものを飲んでいるのか!?
ボトルのラベルからも「美味さ」が漂ってくるではないか。2人のセーラーの足が交叉(クルサード)している。なるほど足が(パタ)縺れるような強烈な酒だからパティクルサードなのか。また、2人のセーラーに各々名前が付いている。RONERAとMATUSALEM。なーるほど。キューバ人が好んで言う「マトゥサレムよりも年寄り!」ってやつか(マトゥサレムは900年以上も生きたとされる・・・つまり、そのぐらい歴史のある古いモノという意味)。
パティクルサードってのは、歴史のあるラム酒じゃないけど、それに匹敵するクオリティなんだよーん!と言っているのだろう。そして、事もあろうかこのパティクルサードはハバナ・クラブ25年モノに匹敵、或いはそれ以上の味なのに、な、なんとボトル一本3ドルから5ドルぐらいなのだ(く、くやしい)。あのお猪口一杯の25ドルで、5〜6本買えるではないか。
さてキューバに関しては、どこぞの国が先頭に立ち勝手な事を言いたい放題だが、ここで一つ少なくとも断言できる事がある。このパティクルサードを見ても、或いはキューバの一般国民が毎日ガブ飲みしているコーヒー(エスプレッソ・コーヒー)にしても、そのクオリティは輸出用と同等なのだ。つまり、生産者であるキューバ人は、当然の権利として日々最高のものを口にしているというわけである。ここで思い出す事がある。どこの国とは言わないけれど、ある有名なコーヒー輸出国で、コーヒーを収穫をしている農民が私に言った言葉だ。
「実は私たちは、この毎日収穫している私たちのコーヒーの味を知らないのです。何故なら良質のコーヒーのほとんどは日本に輸出されてしまうからです。私たちが飲んでいるのは質の悪いコーヒーに雑穀をまぜて煎ったものです。」
これを聞いた時、私はあまりの恥ずかしさに赤面してしまったのだった。しかし、このような問題は、いわゆる第三世界では頻繁に起こっている事なのである。
い、いかん。話が思わぬ方向に脱線してしまった。私はキューバの誇る「パティクルサード」の話をしていたのだった。
さて、それ以来、私は毎日パティクルサードのボトルを手放さず、千鳥足というよりも足がこんがらがるまで飲み歩いていたので、キューバの友人達からありがたくないあだ名で呼ばれるようになってしまったのだ。
モモトンボ・パティクルサード!
さて、ある日の事だ。ハバナのホテルに戻ると、フロントの美女が私を見るなり爆笑し、こう言うのだ。
「元気?モモトンボ・パティクルサード?!(ぎゃはははは)今日は足がこんがらがってない?(うひひひひひひ)。ところで、後からやって来たあなたのお友達のハポネス(日本人)いたでしょ?(ダ、ダハハハハハハ)あのハポネスったら昨日2人の警察官に連れて来られたのよ!(キャキャキャキャキャ)。何でも公園で大の字になって意識不明になっている所を警官が保護したんだって!(うわはははははははは)。片手に空のパティクルサードの瓶握りしめてたらしいわよ!(う、うわはははははは)」
さんざん爆笑していた彼女が、急に口元に手を当て笑いを堪えながら俯いた。ホテルの階段を、目を充血させ足下がフラフラの、泥か何かの汚れで頭髪が鉄腕アトムのように固まった極めて怪しい東洋人が「ゼーゼー」言いながら降りてきたからだ。
「あ、モ、モモトンボさん。お早うございます。お元気ですか?俺、昨日どっかで飲み過ぎたらしくてほとんど記憶がないんです。覚えているのはタクシーでここまで戻って来たぐらいなんですよ。」
彼が言った内容を知ったフロントの彼女が狂ったように大爆笑した。
「(ぎゃはははは)な、なにがタクシーなもんですか(ぎゃはははは)!あなたお巡りさんに連れてこられたのよ。莫迦ね、パトカーよ!(う、うわはははははは)」
「え!ぇえええ!本当っすか?!ヤ、ヤベーなぁ。と、とんだパティクルサードしちゃったみたいで」
長々と戯けた事をお話してしまいましたが、皆さんもキューバというかその首都のハバナに行かれたら是非このパティクルサードをお試しください(ハバナと断ったのは、地方ごとにこれまた美味な地酒があり、土地の人はきっとそっちを勧めるに違いないからです)。いくら美味だからといってパティクルサードを日本に輸入して、キューバの人が飲めなくなるってのも困るので、それはキューバまで出かけて飲んで頂戴ね〜。
しかし、日本人の性根の悪さを叩き直すにはパティクルサードの輸入というか輸血が絶対不可欠なんだが・・・
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