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ない

ちょっと通して〜 (1998)

by MARLEN
「ボーダーレス」とか「もう国境はない」とか・・・日本に住んでいるとよく耳に飛び込んでくる言葉について、ちょっとある機会に書いた事もあるのだけれど、ここにも書いちゃいますね。

私にとって音楽がものすごく特別なものであるというのは、歌手であるからということ以前に、音楽がその性質上、管理しようにも管理できないもの、いとも簡単に境界を越えてしまう空気のように自由な存在だからなのです。ちょっと、幻想が膨らまされすぎているような気がしますが、リリー・マルレンという歌のエピソードに象徴されるような要素を確かに音楽は持っていると思うのです。

いつも楽観的に希望というものは持っています。例えば、今やインターネットの普及で、国境を越えての情報のやりとりも、かなり自由に行えるようになってきたましたよね。でも、生身の人間が同じように越えていけるか・・・というと、世界はそこまで進化していないと思うのです。こういうと、ほとんどの国にヴィザなしで簡単に出入りできる日本人にはピンと来ないかもしれません。でも、実は世界の圧倒的に多くの国の人たちには、そんな芸当は夢また夢という事を知っていて欲しいと思うのです。ですから、いとも簡単に「国境は無い」なんて声が聞こえてくると首を捻らざるをえないのです。

昨日、東京のブルーノートに行ってきました。私の大好きなブラジル系の女性パーカッショニストで歌もうたう「シーラE」のライヴがあったからです。彼女のリズム&ブルースのバンドはやっぱり凄かった!私は多くの女性インストゥルメント奏者を知っていますが(私もかつてはそうだった)、どんなに実力があっても必ず男性と比較され、みんな悔しい思いをしているわけです。そんな中、誰をも唸らせるシーラEのような女性の存在はやっぱり敬意を表さざるをえないのです。

勿論それだけでなく、私は彼女の大ファンなので、CDやビデオでしか知る事のなかったシーラEのライヴに行けるというのは、何にもまして嬉しかったのです。

シーラEが素晴らしかったのは勿論ですが、今私がここで記したいのは、そんなことではないのです。キューバ人の私にとって、欧米をメインに活躍する音楽家の演奏に生で接する機会はほとんど無いに等しかったわけです。例えばシーラEは、よくフロリダで演奏をするので、本来ならキューバから小船に乗ってもすぐに着いてしまうような距離にある彼の地に聴きに行った方が遙かに近い筈なのです。ところがそうは行かなかった。

さて、そんな事を想いながら何とも複雑な心境に陥ってしまいました。キューバを遠く離れて今は日本に住む私。こんなに遠く離れているのに、至近距離にいた時には叶わなかった夢がいとも簡単に叶ってしまう。これには混乱させられました。途方もなく出来の悪い喜劇映画を見ているような気がしてなりませんでした。

ブラックユーモアにも限度が・・・

例えば今(縁起でもありませんが)、私のキューバの両親が危篤状態に陥ったとします。日本人なら、とるものも取り敢えず、お金とパスポートだけを手に空港に直行して、一番早い便に飛び乗ればいい。ところが私はそうはいかないのです。日本−キューバの直行便はないので
(注*)、「米国−メキシコ−キューバ」、あるいは「カナダ−メキシコ−キューバ」というように複数の国を経由して行くしかない。そこまでは日本の皆さんも同じでしょう。しかし、私には、どの経由国に行くにも「通過ヴィザ」を取得しなければならないのです。つまりそれら無しには何処にも行けない。最低、対象複数国の通過ヴィザを取得するのに5日は必要なわけで、これでは親の死に目にも会えない。こんな莫迦な話がまだ現実としてあるのです。

もうすぐ21世紀だというのに、いつまでこんな笑えない冗談がまかり通るのでしょうか。いつになったら人は自由になれるのかしら?
このコラムは、マルレンが1998年4月に書いててスペイン語ヴァージョンのみに掲載していたものです。翻訳者に時間がなく、日本語ヴァージョンがおそろしく遅れてしまいました。また、それでも慌てての意訳という情けなさ。マルレンのオリジナルを反映していない部分も相当あると思いますが、そこのところはご容赦下さい。(by MOMOTOMBO)
注: 2000年の8月より日本−キューバ間を往復するチャーター便がたまに飛んでいますが、それでも給油の際にカナダに立ち寄る為、世界をほとんどフリーパスの日本人には問題ありませんが、キューバ人にはカナダの通過ビザが必要になります。
追加 注: ちなみに、別にキューバ人だけが特別なわけではなく、いわゆる先進数カ国以外のパスポートではキューバ国籍同様、だいたい似たような扱いを平等に受けることになるみたいです。すでに国境はない・・・などと言うと、失笑されますので気を付けましょう。

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