音楽という医術

Tokyo, February 14, 2010

音楽という医術
by Marlenlinea_luz
かつて、キューバで論争がありました。論争というほど大袈裟なものでもなかったのですが、お医者さん達が、キューバの音楽家達の給料が、医学関係者のそれを上回るのはおかしいのではないか・・・と疑問を呈したからです。

日本にいると、いわゆる日本人が言うところのメジャー・デビューをして、大手プロダクションに所属してヒットでも飛ばさない限り、お医者さんの給料を上回るなんて事はありえないのでピンと来ないかもしれませんが、キューバでは、お医者さん(=イコール)赤ひげ先生で、お金とは無縁の存在なのです。従兄弟の小児科医など、病院から帰ってきても、いつも近所の子供たちを無料診察して走り回っているので靴の底は磨り減り、万年貧乏。そして貧乏に暇は無し。寝る間もないという有様です(使命感に燃える彼は、それを苦にはしていないのですが)。

さて、キューバの音楽は世界的に注目されていますので、プロのミュージシャンは海外公演なども必然的に多くなります。そして、外貨を受け取るケースが多いので、やはり一般のキューバ人労働者に比べると実入りは良くなります。その為、お医者さんを目指すより音楽家になりたい・・・という子供が(若干だと思いますが)多いのは、事実かもしれません。

ミュージシャンがお医者さんと比肩される・・・そんな背景もあるので、私のように外国で生活しているキューバのミュージシャンは、はじめはたいそう戸惑う・・・というより、激しいショックを受けてしまうのです。今では笑い話ですが、私の弟(彼も音楽家)が日本に遊びに来る時、夫が弟に発した警告です。

「経由する国のイミグレーションで、絶対に入国カードの職業cojoneee欄に音楽家だの芸術家なんて書くなよ。カンパニー・スタッフとでも記入するように。分かった?ブンむくれる気持ちは分かるんだけど、かつて、芸術家と記した為に、米国でお尻まで調べられた有名な画家もいたくらいなんだ。不法滞在するに違いないと思われるのが関の山だから、くれぐれも注意するように」

まだ私が日本に来て日が浅い頃、こんなこともありました。今はスペインで活躍する私の同級生で、キューバでは誰もが知る有名なピアニストの近況について、私が嘆いた時のことです。

「可哀想な○○○・・・毎日のように子供相手にピアノのレッスンをして、日曜はマドリッドの青空市場で、奥さんと一緒に手作りクッキーを焼いて売っているんですって・・・」

これに対し、その場にいた日本のミュージシャン氏がキョトンとして、こう言ったのです。

「ん?よく意味が分からないな。それの何処が可哀想なの?」

そこで私の夫が大爆笑したのです。彼は日本人で、芸術家が食べていく為に副業するのは当たり前と思っている一人なので、きょとんとしているミュージシャン氏の顔が、たまらなく可笑しかったのでしょう(ちなみに、彼自身も専攻は映画だったので、かつて就職試験の際、「つまり4年間遊んでいたということですな。まったくお気楽なもんだ。フンッ!」と面接官に揶揄というか呆れられ、全く相手にされなかった・・・などという経験をかなりしているからです)。

つまり、芸術で生きようなんて虫が良すぎる。食べられなくて当たり前・・・という日本の風潮というか感覚が、キューバ人の私には、全く理解不能だったわけです。

で、話を元に戻すと、キューバのお医者さん達が持った疑問に、キューバの音楽家たちがどう答えたかというと:

「音楽家は、より広範囲に人々の心を癒すことが出来る」

面白いことに、これに対しキューバのお医者さん達は、「まぁ、そりゃそうだけどさ・・・」と、リアクションした事なのです。

音楽も医学も、その使命は同じ!? ね?キューバって面白い国でしょう?